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北欧女性と浮体

 

川崎製鉄 平本高志

 

今回浮体構造物の調査に赴いた北欧は、森と湖、さらに海にも囲まれた美しい地域である。サンタクロースのふるさととも言われるここ北欧で、地域的な条件や様々な文化・技術的なポテンシャルなどを背景にしながら、浮体構造物が実現し発達してきたのである。その経緯や浮体の特徴などをほんとうの意味で理解するためには、きわめて多面的な調査が必要、と考えたのは何も私だけではあるまい。
その夜は、上田調査委員長をはじめとする数人の方々とホテルの外に出かけ、上述のような議論を戦わせていたのであった。たまたま、そこは酒場であったため、相当酔いのまわった若い女性が話しかけてきた。目鼻立ちはくっきり、ほんの少し減量すれば充分テレビ出演が可能なくらいの美人であった。「どこから来たの?」「何のために?」と彼女が聞いてくる。われわれが「浮体構造物の調査で訪欧した」と言うと「Really?私は北海油田の海洋構造物を作ったWelderなのよ」という話。welderというのは溶接工のことであり、いくら何でもそんなキツイ仕事をこんな美人がするハズがない、と思った私は、「ウッソ〜」というような表情になったに違いない。ここで、それまで機嫌のよかった北欧美人が御立腹になった。体力的な面でも男女平等に仕事をしている国の女性は恐い。この緊急事態を円満に解決するために、私は「彼女の話を心底から信じた」というフリをせざるを得なかった。
翌朝のこと、通りがかった水族館の横の壁を、これまたわりと容姿端麗な女性がペンキにまみれながら塗装していた。昨夜のwelderの話はほんとう?
このような若い美人と肉体労働という組合わせは、日本では考えにくい。この国ではこうやって働き、このような文化・価値観を背景に浮体式構造物を発想し、実現してきたのか、と少しだけわかったような気になった。
しかし、浮体式橋梁や浮体式石油掘削施設などと、若い女性の肉体労働への進出とは、ほんとうに関係があるのだろうか、と少し考えてみた。浮体から連想するイメージは、浮かぶ・ゆっくり揺れる・おおらか・平和…など。肉体労働する女性からは逆に遠ざかるものになってしまう。わかった!女性がたくましくなりすぎた国の男性が、よき日の女性を夢みて浮体構造物を実現に導いた???(エッ???)
現地でも終始こんな調子であった私ですが、参加された方々にはいろいろ御世話になり、ほんとうにありがとうございました。これを機会に、今後ともよろしくご指導頂ければ幸甚です、とこれまた勝手なお願いをして、ペンを置くことにしたいと思います。

 

 

 

 

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